自慢ではないけれど、私は世間で言う結婚出来ない男だった。
と言うのも一人暮らしが長く生活に必要な事、掃除洗濯炊事…
どれも自分で出来てしまう為、結婚の必要がなかったから、これは言わば表向きの理由である。
本心は結婚なんて面倒と言う事だったのではないかと思う。
女友達はたくさんおり、食事や映画に一緒に行く相手にも事欠かなかったから、特別困った事もなかった。
結婚出来ないのではなく、結婚しない男なんだと豪語し、独身生活を謳歌していた。
四十近くになってもまだ独りでいる私に両親は大変やきもきしたようだ。
私には姉が一人おり彼女は二十歳そこらで結婚して二人の子供の内、上の子は成人式を迎えると言う。
姉からも「いいかげんに結婚しなさいよ」と会うたびに言われていた。
その僕がどういう訳か一人の女性に恋をし、あっと言う間に結婚する事になったのだ。
口の悪い姉などは、そんなに急で大丈夫なの?
いつまで持つ事やら、などと言う。結婚式はとにかくプランナー任せで、別にこだわりもなかった。
結婚式の当日、ウェディングドレス姿の彼女を見たとたん、僕は現実に引き戻された思いに戸惑った。
彼女はあまりにはかなげな花嫁だった。
彼女を守らなければいけないのだ。
今までのようなわけには行かない。
そんな思いが強くなった。
僕は彼女の為に今まで独身を通していたのだ。
今更のようにそう感じた。
僕は挙式を通して初めて彼女への強い思いを新たにしたのだ。
家庭を持って初めて僕は一人ではない安らぎの日々を知った。
これはあの挙式の時に彼女に対して感じた責任感のようなものにも繋がっている。