予防する方法があるにも関わらずHIVの母子感染が止まらないわけ

2006年に行われたユニセフによる調査に結果によれば、その年1年間でHIVに感染した子供の数は世界中で50万人にも上りました。

そして、その子供たちがHIVに感染してしまった原因のほとんどが母子感染だというのです。

現在、エイズに関する治療は日々進化をとげていますので、HIVの母子感染についても高い確率で予防できるようになってきています。

それにも関わらず、HIVの母子感染が世界中で広がり続けているのはなぜなのでしょうか。まずは、母子感染について簡単に説明をしておきたいと思います。

母親がHIVに感染していた場合に、子供にHIVが感染する感染経路は3つです。子宮内での感染、産道での感染、そして産後の授乳などのよる感染です。

HIV に感染している母親が感染の予防をせずに妊娠・出産した場合、30%~40 %の確率で子供にもHIVが 感染するといわれています。

感染経路の一つである、子宮内での感染を防ぐためには、妊娠14~34週の間に抗レトロウイルス薬の投与をすることで、子宮内での感染を防ぐことが期待できます。

また、母子感染の経路でもっとも危険性が高い産道での感染を防ぐためには陣痛が来る前に帝王切開を行うのが効果とされています。

出産時、胎児が産道で母体の血液にまみれ、その血液を飲み込んだりして感染が起こる可能性が高いからです。

母子感染の50%は出産時に起きます。帝王切開をすることと、出産時に適切に抗レトロウイルス薬を使うことで感染のリスクを減らすことができるのです。

また、母乳による感染を防ぐためには、母乳を与えずに粉ミルクを与えることで防ぐことができます。

これらの予防策を正しく行った場合には、母子感染は9割以上の確率で防ぐことができるとも言われています。しかし、世界では今も母子感染が拡大しているのです。

予防策があるにも関わらず母子感染が止められない原因は、知識の不足、貧困、衛生環境の悪さという問題に大きく関わっています。

まず、自分がHIVに関する知識不足により自分がHIVに感染していることを知らずに妊娠、出産をしているケースが圧倒的に多いことです。

これでは、予防のしようがありません。また、抗レトロウィルス薬は飲み続けることが大切で、

飲み忘れてしまうと効果がなくなってしまうのですが、その服薬の指導や管理を正しくできる人がいないというのも大きな問題です。

これらの方法に母子感染を防ぐ効果があることをたとえ知っていたとしても、薬を服用し帝王切開で出産できるだけの経済的余裕がないという人もたくさんいます。

同じく、母乳で感染するリスクがあることを知っていても、粉ミルクを買うお金がなかったり、赤ん坊に飲ませられる安全な水が手に入らないという場合もあります。

母乳からHIVに感染するリスクよりも、母乳を飲ませないことで赤ちゃんが栄養不良になったり、不衛生な水で下痢を起こして亡くなるリスクが高い地域もあるのです。

エイズに苦しむ国々で、母子感染予防のケアを受けられるのは必要としている母親の1割にも満たないというデータもあります。

こうした母子感染から子供を救い、HIVの脅威から母子を守るためには、国際社会の手助けが今以上に必要ということです。

HIVの母子感染を予防するケアを必要としていう9割以上の母親が、今も適切なケアを受けられていないということを、私たちも知っておかなくてはならないでしょう。