嫌われる勇気―――自己啓発の源流「アドラー」の教え要約

著者: 岸見一郎古賀史健

著者: 岸見一郎古賀史健

序章：アドラー心理学の基礎

アドラー心理学は、オーストリアの精神科医アルフレッド・アドラーが提唱した心理学の一分野です。アドラー心理学は「人は誰でも今この瞬間から変わることができる」という楽観的な視点を持ち、自己成長と幸福を追求するための具体的な方法を示しています。アドラーは、過去のトラウマや経験が現在の行動に影響を与えるのではなく、現在の目的が行動を決定すると主張しました。

原因論から目的論へ

アドラー心理学の基本的な考え方は、原因論から目的論への転換です。原因論は、過去の出来事が現在の行動や状態を決定すると考えますが、アドラーはこれを否定します。彼は「過去の経験が現在の行動に影響を与えるのではなく、現在の目的が行動を決定する」と述べています。例えば、ある人が対人関係で悩んでいる場合、その原因が過去のトラウマにあるのではなく、「他人に嫌われたくない」という現在の目的から来ていると考えます。

劣等感と優越感

アドラー心理学では、劣等感は誰にでもある自然な感情とされています。重要なのは、その劣等感をどのように捉え、対処するかです。劣等感をバネにして努力することができれば、それは成長のエネルギーになります。一方で、劣等感に囚われて行動を避けると、成長が阻害されます。また、劣等感を隠すために他人を見下す優越感に走ることもあります。アドラーは、他人と比較するのではなく、自分自身と向き合い、自己成長を目指すことが大切だと説いています。

自己受容と他者信頼

自己受容とは、自分のありのままの姿を受け入れることです。アドラーは「自分を受け入れることで初めて他人を信頼し、健康な人間関係を築くことができる」と述べています。他者信頼は、他人を信頼し、助け合う関係を築くことです。これには、他人に対する過剰な期待を持たないこと、そして自分自身に対しても過剰な期待をしないことが含まれます。自己受容と他者信頼ができれば、対人関係の悩みも軽減されます。

課題の分離

アドラーは「他人の課題と自分の課題を分離すること」が重要だと説いています。これは、他人の問題に過剰に介入せず、自分の問題に集中するという考え方です。例えば、親が子供の成績に過剰に干渉することは、子供の課題に介入していることになります。アドラーは、親は子供をサポートする役割に徹し、子供の課題に直接介入しないようにすることが大切だと述べています。このように課題を分離することで、自分の課題に集中し、他人との健康な距離感を保つことができます。

貢献感と共同体感覚

アドラー心理学のもう一つの重要な概念は「共同体感覚」です。これは、自分が社会の一員として他人に貢献していると感じることです。人は、他人に貢献することで自己価値を実感し、幸福感を得ることができます。アドラーは「人間の幸福は他人への貢献から生まれる」と述べています。自分が何かに貢献していると感じることで、自己価値を高め、自己肯定感を持つことができるのです。

行動する勇気

アドラー心理学の最も重要な教えの一つは「行動する勇気」です。これは、他人にどう思われるかを恐れずに自分の信じる道を進む勇気です。アドラーは「他人に嫌われることを恐れずに、自分らしく生きること」が幸福への鍵だと述べています。これは簡単なことではありませんが、他人の期待に応えるのではなく、自分の価値観に従って行動することで、真の自己実現と幸福が得られるとされています。

自己決定と責任

アドラーは、自己決定と自己責任の重要性を強調しています。彼は「人間は自分の人生を自分で決定し、その結果に責任を持つべきだ」と述べています。これは、他人や環境のせいにせず、自分の選択に責任を持つことで、真の自由と自己実現が得られるという考え方です。自分の人生を自分でコントロールし、責任を持つことで、自己成長と幸福が得られるとされています。

実践への移行

アドラー心理学の教えを実践するためには、まず自分自身を理解し、受け入れることが重要です。次に、他人との健全な関係を築くために、自己受容と他者信頼を実践します。さらに、課題を分離し、他人の課題に過剰に介入せず、自分の課題に集中します。そして、共同体感覚を持ち、他人に貢献することで自己価値を実感します。最後に、行動する勇気を持ち、自分の信じる道を進むことが大切です。

結論：アドラー心理学の実践

アドラー心理学は「誰でも今この瞬間から変わることができる」という楽観的な視点を持っています。自己成長と幸福を追求するためには、過去に囚われず、現在の目的に集中し、他人に貢献することで自己価値を実感することが重要です。他人にどう思われるかを恐れず、自分の信じる道を進む勇気を持つことで、真の自己実現と幸福が得られるのです。

このように、アドラー心理学の「嫌われる勇気」は、自己成長と幸福を追求するための具体的な方法を示しています。過去に囚われず、現在の目的に集中し、他人に貢献することで自己価値を実感し、真の自己実現と幸福を手に入れることができるのです。