彼女は手先が器用で、手芸や人形作りをするのが趣味だった。結婚が決まり、結婚式場を決め、プランを立てていく上でウェルカムボードは手作りしたいと言う。
それから彼女は一針一針丁寧にボードを作っていたようだ。僕には結婚式まで内緒と見せてはくれなかったけれど。
彼女の生い立ちは決して幸福なものではなく、彼女の父親はまだ彼女が1歳の頃亡くなり、母親の手一つで育てられたとの事。
小さい頃から貧乏で遊ぶ事といったら母の針仕事を見よう見まねで端切れを縫い合わせてお人形の洋服を作ったりそんな事だったと良く聞かされた。
もともと手先が器用なのはそのせいなのだ。
結婚式は晴天でまさに二人の門出を祝っているかのようだった。式場に着くと真っ先に彼女のウェルカムボードが僕を迎えてくれた。
僕と彼女をとりまく様々な人々が丁寧な刺繍で描かれたウェルカムボード。真ん中でにこやかに笑っている僕と彼女の姿が涙で滲んだ。
ウェディングプランナーさんが、素敵なボードですねえ、と優しく言ってくれる。
このウェルカムボードに迎えられて、もう少ししたらたくさんの人達が集まってくれる。控室にはすでに支度の整った彼女がウェディングドレス姿で座っている。
彼女と結婚出来、挙式を挙げられる幸せを僕はひしひしと感じていた。
義母と共に僕の前に来た彼女は、私を選んでくれてありがとうと畏まって言う。
こんな日が来るなんて思ってもいなかった、こんな立派な式を挙げられるなんてと言うのだ。それは僕のセリフだった。
こんなに素敵な人を妻に出来る自分は何と幸せものなのだろう。彼女のウェルカムボードで笑っているのは紛れもなく僕の今後の姿だ。
挙式なんて不要だと言う人がいるが、式に臨む厳粛な気持ちや改めて素直な心で妻となる人と向き合える気持ちを思うとやはり結婚式と言うのはなくてはならないようなものに思える。
僕も彼女もあの式があったからこそ、より絆を深める事が出来たのだと思うのだ。