正しい知識を持って、エイズに対する差別や偏見の無い社会を作ろう

1980年代にエイズが発見された当初は、エイズに対する治療法はなく、世界中の報道機関が、この病気を恐ろしい不治の病として報道しました。

病気の恐ろしさをよりセンセーショナルに伝えようと、末期患者が苦しみ死に至る姿を放送するなど、病気の恐ろしさばかりが強調して伝えられた時代です。

また、この正体の分からない病気の犯人をなんとか見つけて安心したいという人間の心理もあったことと思いますが、

エイズは同性愛者だけの病気だという何の根拠もない一つの仮説が、医学的根拠に裏付けられた事実のようにして世界中を駆け巡ったこともありました。

エイズやHIVについて正しい知識や情報がなかった時代のこうした報道によって、人々の間に生じた誤解や偏見からHIV感染者への誤解や偏見が広がり、

HIV感染を理由に職を失ったり、医療機関で差別的な対応や診療拒否をされたりするといった人権侵害が起こったのです。

エイズが1980年代に世界で初めて発見されて以来、30年以上の歳月が流れました。

その間に、エイズがHIVによって発症することが発見され、現代では治療法も確立されつつあります。

エイズやHIVに関する正しい知識も、多くの人に伝わり、エイズが発見された当初に比べれば、HIV感染者への偏見や差別はなくなってきたと言うこともできます。

しかし、残念なことに、差別は完全にはなくなっていません。

HIVが性行為を含まない日常生活の中では感染しないことや、HIVに感染してもエイズの発症を遅らせる治療があること、HIVとエイズは異なるもので、

HIVに感染しても、エイズを発症しなければ、それまでと変わらない生活が送れることなどは、現代では既に知っているという人も多いことと思います。

それにも関わらず、これらの知識が常識として人々の間に浸透しつつある現在でも、HIVに感染したことによって偏見や差別を受け、

結果として職を追われたり、奇異の目に晒され辛い思いをしている患者さんは多数いるのです。

また、HIVが性行為を介して感染することから、感染したことを自業自得というように思われることで辛い思いをする患者さんもいます。

HIVは、何も不特定多数の異性と性行為を持ったり、買売春を通してだけ感染するわけではありません。

HIVは、症状のない潜伏期間が長期間あることから、自分が感染していることに気づかずにパートナーを感染させてしまうことがあります。

そうしたパートナーから感染してしまうことは誰にでも可能性のあることで、誰がHIVに感染していてもおかしくない、

HIVは誰にでも感染の可能性がある身近な病気であるということをよく理解してくただきたいのです。

HIVが身近な病気だと理解していただくことで、HIV感染を予防する意識を持ってもらうことができるとともに、HIV感染者への偏見や差別をなくこともできます。

HIVに感染しても、健康な人と変わらない生活を、健康な人とともに送っていける病気、それがHIVです。

正しい知識を持ち、エイズやHIVに対する偏見や差別のない社会を作っていきましょう。